結局は何も残ることはなかった。
結局は自分一人になってしまった。
誰もいない。誰も報われない。
だから、彼は祈った。

prologue


クリスマス前の雪降る道をただ歩いていた。
風は冷たく去年買った薄手のコートでは役不足である。
それでも歩いていた。
顔は表情など無く、魂が抜けたような感じである。
それでも歩いていた。

一本の木にたどり着いた。
この街に伝わる伝説の木。
何かと引き替えに願いを叶えるモミの木。
いわば神様との取引を仲介してくれる木なのだ。
その木を背もたれにして静かに座る。
一つため息をして、宙に舞う白いケムリの行方を追う。

――音も立てず透明に溶けた。

そう言えばみんなそうだ。

――例えば菜乃。
別れはいきなりだったし、別れて残ったのは静かな朝だけだった。
すぐ慣れる、とは誰が言った言葉だったか。
ぎゃーぎゃー騒いでいた生活を取られた。
俺は奴がいない生活なんて考えたこと無かったし、こんな寂しいものだなんて思いもしなかった。
たぶんこれからも慣れないし、一生物足りない朝を迎えるんだ。

――雪那もいない。
何年ぶりに会って、一緒の学校ですごすことになったのにすぐにいなくなった。
しかも海外。もう会えないのだろうか。
しかたないか、奴はお嬢なんだから。
俺とは違う世界。
それでも、今まで接していた人間がいきなりいなくなるのは悲しい。
親しくしていた仲なら尚更だ。

――そう言えば摩尋もそうだ。
いきなり私は消えるから、なんて何事かと思った。
その言葉の意味を知ったとき、悲しいとは思わなかったが、ただ漠然とした虚無感だけが残った。
後味の悪いコーヒーを飲んだ感じ。
あれだけ騒いでた仲なのに張り合いがない。
純一も今頃何考えてるんだろうかな。
やっぱ摩尋のいない教室も考えられない。

――ただいなくなっただけ。

それが静かに傷口を作った。
死んでるわけでもないし、会えないわけじゃない。
でも、本当に今後会えるのか、と考えると絶対じゃない。

――さみしーな。

全くだ、俺一人だけにしやがって。
純一くらいしかもういないじゃないか。
っていうか、どうするんだよ。
ちゃんと俺抜きで朝起きられるのか、菜乃よ。
雪那もマフラー編んでたけど、一緒に首に巻こうなんて約束しておいて、本当にちょっと期待してたんだからな。
摩尋よ、あの猫どうするんだ。
秋臣を2体も残してどっかいっちゃうなんて良い度胸してるじゃねえか。

――っは、はははは・・・。

俺も救われないな。
一番寂しいのは俺なんだぞ。
一気に3人も周りから消えちまったんだぞ・・・。

――気がついたら、泣いていた。
ぼろぼろと目から涙があふれていた。
嗚咽をかみ殺す。
周囲に人はいないけど、どうしてもプライドが待ったをかけたからだ。

――なあ、これが最高の運命なんだよな。

誰かは言っていた。
人の道は常に最高の軌道に成っている、って。
だから、奴らは幸せなんだよな。
絶対幸せなんだよな。
菜乃も摩尋も雪那も、みんなみんな幸せなんだよな。

――なら、なんで泣いてるんだ。

ははは、情けない。
俺は最高が幸福に繋がらない良い例なんだろ。
丁度良いじゃないか、こんな言葉を全面的に信じる奴の見せしめになって。
ははは、はははははははははははは・・・。

「・・・神様聞いてくれるか」

祈りは始まった。

「俺はさ、もう失うものはほとんど無いんだ」

雪が降り始めた。

「バイクも大切だけどさ。・・・純一はゴミ箱に入れても自力で這い上がってきそうだから無くなることはないんだろうけど」

白いゆきだまはとても綺麗だった。

「だからさ、これ以上失う事なんてないんだけどさ」

手のひらの上に着陸したゆきだまもやがて消えていった。

「せめてさ、奴らくらい幸せにしてやってよ」

これはエゴだったのか。

「俺はさ、不幸せなんだけど、でも、奴らは幸せになる権利があるだろ」

もしくは他の何という感情か。

「価値のあるものなんて無いけどさ。なんでもいいよ。持ってっていいから、」

祈る。
祈る。
祈る。

「幸せにしてやってよ。最高に幸せの道を歩かせてやってよ。幸福になる道を約束してよ」

――確かに、モミの木は光った感じがした。

はるうた

-how to find to become happy-



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