ドッゴーン。
吹き飛ばされる。
いや本当に吹き飛ばされたのだ。
実際俺の背中には電柱が立っており、それにもたれかかるような形で座っている。
ははは、そりゃそうだよな。
渾身の身で俺をからかってる時に人に見られたんだもんな。
そりゃあ俺に八つ当たりするわけだ。
頑張れ衛宮士郎。
お前は最低限、あと卒業するまでこの赤いあくまと知り合いなのだぞ。
「あんた・・・だれ・・・?」
ははは、八つ当たりは止めろって遠坂。
いくら見られたからって赤の他人に毒づくほど・・・。
「こんばんは、可愛い魔術師さん」
は?
顔を上げる。
そこには電灯の下、遠坂と見知らぬ誰かがいた。

the rhapsody was performed

-God doesn't permit even crying-


「あら、私を魔術師だって知ってるの?」
「知ってるも何も私は今ここを通りかかっただけよ」
女性か?
真っ黒なワンピース。
顔は見えなかったが上品な感じがした。
いや、それ以上に、
「とんでもない魔力ね。・・・サーヴァントみたい」
「な、今なんて言った遠坂!?」
こんなところでこんな言葉が出るとは思わなかった。
「まあ、流石前回の聖杯戦争で好成績を残した遠坂凛だけあるわね」
それはため息をはくように。
そしてそのため息が俺たちを混乱させるのに数秒もかからなかった。
「ふん、私も有名になったことね」
「そうよ、聖杯戦争の敗者が生き残ってるなんてね」
明らかに遠坂の表情が曇るのが分かる。
「そしてそこの男の子が前回の勝者、セイバーのマスターの衛宮士郎君?」
・・・やばい
心臓がバクバクと動き出す。
逃げろ、逃げろ。
なんでか分からないけどここにいたら殺される。
逃げろ、逃げろ
気がつくといつの間にか立ち上がり
「走るぞ遠坂!」
全速力で走り出した。
「ちょっと、何処へ!?」
「お前の家まで走るぞ!」
迷ってる暇など無い。
とにかくあいつはやばい。
あいつにはひどく血の臭いがした。
何人も殺している。
しかも理由など無い、快楽で。
とにかく走らなければ、遠ざからないと。
でも、無茶な話だった。
やつの反対側に走ったはずなのに。
体だけ街灯に照らされ、やつはまた静かに笑い出した。
あら、いきなり逃げるなんてなんて無粋なの?
相手は遠坂が言うにはサーヴァント。
魔術師とはいえ生身の人間が逃げ切れるなんて・・・。
「離れて士郎!」
ばっと後ろにいた遠坂が前に飛び出し。
Funf,Vier! Schwarzes Feuer brennt alle!」(五番!四番!黒の焔は焼き尽くす!)
途端辺りが火に包まれる。
宝石魔術。
住宅街のど真ん中とはいえ背には腹は代えられない。
だがサーヴァントといえどもあれほどの威力の魔術を食らっていて無事ではないだろう。
無事であっても目くらましには十分・・・、
さみしいわあ。どこかに行っちゃうの?
分かっているはずだった。
ただそれを肯定したくないだけで。
「・・・何の用?私たちはもう関係ないはずだけど」
声が震えているのがわかった。
「うふふ、私たちはね、聖杯戦争に参加するつもりなの。だから今の内力を蓄えていないと」
そいつはとんでもないことを口にした。
聖杯戦争?
そんなものとっくに終わったはず。
なのに目の前のサーヴァントと思われるやつはそれに参加する?
「なに、魂を食べるつもりなの?」
右手を制服のポケットに忍ばせる。
「そう、当たり。しかもとびっきり可愛いくて魔力のある女の子をね」
「それって褒め言葉?ありがたく受け取っておくわ」
一瞬。
stark! Nebel halt, um Schatten zu verstecken!」(二番!霧は隠す 影を!)

「・・・、うまく巻けたみたいね」
「なあ、遠坂」
「・・・話は後で。とにかく桜を士郎の家に」
「なんでだ?」
「・・・衛宮君は魔力を感じる家にいる人間を見過ごすと思って?」
ははは、と力ない笑いを浮かべながら。
それでも逃げ切れたことの安堵感と不安が胸を押しつぶそうとする。
「・・・もう、聖杯戦争に関係ないと思ってたんだけどな」
ふらふらと俺の肩に捕まり歩き出す。
まだアルコールは飛びきっていないらしい。
「二度あることは三度あるって言うし、もしかしたらもう一回あるかもしれないわね、私たち」
「・・・やなこった」

「逃がしちゃったの?」
「うん、一回だけしか遊べないのは勿体なかったから」
新都の高級マンション。
高層ビルの一室。
「可愛かったわあ。あれ本当に食べていいの?」
「言ったでしょ。私の欲しいのは聖杯だけだって」
口紅が闇の中で光る。
「ゲームは始まったわ」
窓からこの世を見下ろす。
輝き、黒い欲望が満ちあふれている。
美しい美貌を持つ彼女にとってどれだけの楽園であろうか。
「蘭香、今日はもう休みたいのだけど」
ランプに照らされたサーヴァントがマスターにそう告げる。
「わかった」
一言だけ呟く。
「お休みなさいアサシン。良い夢を」
扉をゆっくり閉めると部屋は闇に包まれた。


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