「――失礼する」
部屋に男の声がした。
ドアが開き、薄暗い部屋に背の高い影と、もう一人、五尺くらいの背の影が入ってきた。
「・・・ふむ、時間通りであるな」
時計の針は二時半を丁度指していた。
「ええ、これも"ビジネス"ですから」
髪の毛をオールバックにして、綺麗に束ねてある男は機械のように笑った。

business

-dark of all-


突然であった。
聖杯が活動していると使い魔からわかったのは。
「・・・カッカッカ・・・、カッカッカッカッカッカッ・・・・!!」
笑いが止まらなかった。
狂ったように笑い続けた。
聖杯が、・・・活動してるじゃと・・・
――ああ、まだ望みは廃れてはいない。
その途端、一人の男に出会った。
名を三国新城と言う者であった。
「貴方に話があって参った」
臓硯しかいない屋敷の薄暗い部屋の一角でその男は話をした。
――私は聖杯戦争に興味があり、参加したい。そのために是非協力をして欲しい、と。
魔術師同士が手を組むことはあまり無い。
相手に手の内を見せながら、かつ、相互に裏切りを警戒し、その機会を見つけなければならないからだ。
もちろん臓硯にしても同じ事である。
しかも老体といえど齢三桁の大魔術師、手を組む事などあり得ないことであった。
――ふむ・・・。
だが、事が事だ。
この聖杯を手に入れること、すなわち聖杯戦争で勝利すること。
そのためにはサーヴァントを召還しなければならない。
すると、そのサーヴァントのマスターはどうするのか。
――桜か・・・?
否、桜は使えない。
前回の聖杯戦争で桜をマスターにし、ライダーを召還したが結局成績を残さず破れた。
しかも、慎二は無い。
桜は決定的に弱い。
魔術師としても、人間としてもだ。
なら、誰がやる?
――儂か?
否、そのような力、もう残っていない。
――よかろう。お主、何ができる?
思案の末の答えであった。
臓硯は手を組むのが最善と判断した。

「召還には成功したのじゃな」
「ええ、クラスはバーサーカー、これなら聖杯戦争に勝つことができるでしょう」
顔は動かさず、男の後ろのサーヴァントを見る。
暗くて顔はわからない。
差し込む月光が全身像を作り上げるが、どうやら鎧を着ているようだった。
「どうじゃ、お主の使い魔は?」
「お言葉ですが、仮にもサーヴァントを使い魔と呼ぶのはどうかと」
いかにもつまらないと、男は笑った。
「しかし、非常に高い魔力を持っている。これなら前回のセイバーとも互角に太刀打ちできるでしょう」
「左様、か・・・」
改めて深く椅子に腰掛ける。
洋風の椅子はあまり心地よいものではないが、考え事をする場所としてはまあまあだ。
「何か進展はございませんか?」
「ふむ・・・、知ってると思うが、セイバーが召還された。前回と同じ、じゃ」
宙を向いたまま告げた。
これは臓硯にとって些か不具合であるらしい。
協会からやってきた一人の女。
得体の知れない小娘がマスターとなったのだ。
使い魔を飛ばそうにも、あの家、衛宮家には魔術師が多い。
不愉快そうに鼻から息を出すと、皺だらけの顔にさらに皺を重ねた。
「セイバー・・・、アーサー王なら大丈夫でしょう。確かに予想外ではありますが。・・・問題は」
「そう、問題は・・・、――ランサー」
――これは非常に困った。
「策士として儂は駒に成ってるのじゃがな。・・・じゃが、どうにもこうにも案が浮かばぬ」
丁度三週間前、ランサーが召還された。
別に驚くほどのことではない。
聖杯戦争が始まり、サーヴァントが召還されるのは当たり前のことだ。
自然の摂理。
その事々に一々驚くことはない。
しかし、話は別だ。
「・・・すまないのだが、蟲共をいくら飛ばしても尻尾を掴めんのでな」
「それもしょうがないでしょう」
――恐らく魔力だけを見れば前回のキャスターの5倍。
たかが槍兵、槍を振り獣のように存在するはずであった。
だが、実際はどうだ。
使い魔、蟲のから見えた魔力は異常であった。
――あれほどの魔力、よほどの英霊か。
マスター自体はそれほどの魔術師ではない。
むしろ魔術師としては半人前の部類に入る。
「お主はどうするのじゃ?」
「私はまだ行動しません。未だキャスターが召還されていませんし、・・・どうやら今日の昼、新しい教会の管理人が来るらしいのでね」
「・・・言峰神父の後釜であるか」
そうなると、この神父が今回の聖杯戦争を管理・監視する人間になるに違いない。
「では、私はこれにて失礼させて頂きます」
「うむ、わざわざ拙宅まで赴き大変すまんかったな」
「とんでもない。また何かありましたら連絡を」
静かにドアを開け、二人の影は消えていった。

"business" out



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