家に帰るとよくわからない状況になっていた。
居間にはセイバーと遠坂が腕を組みながら座っていた。
しかもセイバーなんて武装した状態でだ。
ナータさんもいつもは見せない険しい表情で座っていた。
――その中心に、
「すんません、もう一杯お茶いただけますか?」
神父服を着た男の人が笑顔でのうのうと茶を啜っていた。

七話

-rainy moca-


わざわざ手を後ろに回して敵意が無いことを表しながら客として迎えられた人も珍しい。
しかも笑いながら。
こっちの表情はいかに険しくても向こうはへらへら笑っているのだから何とも言えない温度差が発生している。
「・・・セイバー」
「リン、どうすればよいのでしょうか?」
「あなたはこのまま見張っていて。私はナータを呼んでくるから」
「・・・客人はどうすれば」
「もしかしたら士郎の知り合いかもしれないし、――かといって敵かもしれない。注意して見張っていて」
「わかりました」
そして、大急ぎでナータを呼び、居間に戻ってくると、
「なに・・・してるの?」
神父服の男は自分で急須から緑茶を注ぎ、セイバーはその横で武装したまま正座していた。
――まあ、何ともシュールな光景であった。

「あの、あなたは?」
ともかく、話をしなければ埒があかない。
この異様な光景をそのまま受け入れることにして、俺は神父服を着た男の人に話しかけた。
「ああ、自己紹介がまだでしたわ。申し遅れました、私、赤川四季って言う人間ですわ」
朗らかそうに笑いながら関西弁のようなしゃべり方で自己紹介した。
「そちらさんのお名前教えてくれるかな?」
「あ、俺は衛宮士郎で、こっちが・・・」
「遠坂凛と申します」
いつもの笑顔で遠坂が割り込んできた。
最近自己紹介が多いな、って思う。
「では、ご用件をどうぞ」
無礼に本題に移ろうとする。
恐らく、魔術師の世界とはそんなもんなのであろう。
「はい、はい。たぶん話聞いてると思いますけど、今度教会の管理人になるもんですわ」
「・・・そんな話聞いていないけど」
「急ですもんで。私もいきなり聞かされたときはほんにびっくりしましたわ」
ぱたぱたと仰ぎながら話すのが印象的だ。
「ところで、セイバーのお嬢ちゃん、そろそろ物騒な『もん』しまってくれるかな?」
「は、あ、はい。もうしわけありません」
音も立てずセイバーが元のワンピース姿に戻る。
清楚なその服はナータさんのお下がりのようだ。
「では今回の聖杯戦争の管理は・・・」
「はい、どうやら私が担当するようですね」
「資料などは?」
「ええ、前任の神父さんがきっちり残してたみたいで。ついでに前回、前々回の資料も拝見しましたし何とかなるんちゃうかと」
ずずずっと一同茶を啜る。
・・・あれ、なんかおかしくないか。
「なあ神父さん?」
「なんや?」
「なんでセイバーのこと知ってるんだ?」
一応セイバーと神父さんは初対面のはずだ。
鎧こそは着てたけど、セイバーの剣は不可視、つまり見えない。
だから相当観察しないとセイバーがセイバー(剣士)ってことはわからない。
「ああ、簡単や。資料に金髪の15.6歳くらいの女の子がセイバーって書いてあったから」
「なるほど。そうなると他に人間は私以外いないでしょう」
「そやな。いやー、でもびっくりしましたわ。連続で3回も現世に呼び出されたサーヴァントも珍しいですから」
「珍しいって、聖杯戦争はここ特有の聖杯争奪の方法でしょ?」
イリヤが質問する。
聖杯戦争はイリヤの家、アインツベルン、そして桜の家の間桐、それと遠坂の家が聖杯を争う方法として構築したルールに基づき戦っている。
そのルールもほぼ三家のオリジナルだろう。
「ううん。結構いろんなところでやってるみたいだよ。協会の人間にしか情報は来ないんだけど、誰かがここの街の聖杯戦争のノウハウを引っ張ってきて別の聖杯を求めて争ってるみたい」
「そうゆーことや。・・・ええと、お姉さんお名前は?」
「ナタリー・グリーン。ロンドンの人間です。ナタリーと呼んでください」
「はいはい、ナタリーちゃんやな。そう、聖杯戦争はそれなりに有名ですわ。特に教会が立ち入りできない中南米とかアフリカ、あとアジア辺りで数カ所確認されてますわ」
「へえ。意外とメジャーなんだな」
聖杯がある場所、って訳でもなさそうだが、争奪方法としてはどうやら合理的のようだ。
ノウハウと聖杯があればどこでもできるってわけだな。
「まあ、メジャーって言い方もおかしいけどな。場所場所で色々あるけんね。例えば、つい最近の聖杯も魔術師数十人、しかも一般人に死傷者が出るほどの血みどろの戦いだったし。・・・そんな感じだから、最小限の事に終わらしたかったらこの街の聖杯戦争が一番スマートやな」
あれほどの魔力。
確かに魔術師である以上、喉から手が出るほど欲しい物だ。
それを争って最悪の『戦争』が行われていることもあるのか・・・。
「じゃ、遠坂の嬢ちゃんには伝えたんで私はこれで帰りますわ」
「待って、今回の聖杯戦争のメンバーはわかってるの?」
そうか、聖杯戦争を管理するといっても誰が参加しているかわからなければ管理のしようもない。
「・・・、気をつけなさいや。私が口出していいことかわからんことだけど」
「どういうこと・・・?」
「・・・。ともかくや、メンバーは一応わかってますわ」
「・・・なぜ?」
「さあ。・・・それは教えられませんのや」
愛嬌のあった笑顔も消し、ただ淡々と大阪弁でこの神父は俺たちに"警告"した。
「わかった。なんかあったら教会に行けばいいんだろ?」
「ああ、そんなとこやな。たぶん毎日居ますから遊びに来いや」
「アカガワ・・・、私たちに遊びに行くという余裕はありません」
セイバーが釘を刺した。
「ところで神父さん?」
「ん?」
「なんで遠坂が俺の家に居ることがわかったんだ?」
そりゃあ遠坂は俺の家に入り浸りになってるけどつい最近来たって言う人間に居場所がわかるのであろうか。
「ああ、えらい別嬪のお嬢ちゃんが歩いてたからな聞いてみたんよ。そしたら、な」
「桜か」
「桜だわ・・・」
うーっとうなだれる遠坂。
「人の居場所を教えられるのも困ったもんだね。特に魔術師なんて普通は隠れてるものだし」
「ええ、後で言い聞かせなきゃ」
ふーっとため息を深く吐きながら、手元の湯飲みをぐいっと飲み干した。

someone is somewhere



back
contents top


since 04/12/30

(c) BadFuge http://badfuge.fc2web.com/

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送