魔術師は魔力を感じて他の魔術師の存在を感じ取ることが出来る。
獣が自分の縄張りに入ってきた他の獣の存在を感じるようなものかもしれない。
遠坂によると、おおざっぱに言えば自分の周りに結界を張っているようなもの、という。
厳密に言えば全然、全く違うらしいのだがわかりやすいと言えばわかりやすい。
「イリヤ、ごめんな」
「シロウが謝ることない」
たぶん俺程度の魔術師なら、他の魔術師の存在を感じるのが限界であろう。
もしかしたら世界にはもっと細かな情報を一瞬にして手に取るように分かる魔術師もいるかもしれない。
だけど今の俺には、存在の他にもう一つ、確かに分かる情報がある。

――殺気

paid to my God

-run and run-


――あのときの髪の毛が一瞬にして思い出したのは幸いであった。
すぐに敵であると分かったから。
おひさ
雨の中、一人の女、否、何かがこちらにそう言った。
綺麗に染めた紫色の髪、真っ黒な服、――そして今日初めて見ることができた本物の美人である顔。
なんと形容すればいいのか分からない。

ただ美しい顔なのだ。

長い髪の毛と本当に調和している一輪の花がこちらに来た。
ただ、花は俺を惑わすことは出来なかったようだ。
――アレからは血のにおいがする。
美しい薔薇には刺がある、ってのは有名な言葉であるがアレは棘なんてものじゃない。
――残酷な、冷たい、何か。
「――初めてでございますわね
啖呵を切ったのはイリヤであった。
「あらお嬢さん、お名前は」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。お見知りおきを」
ゆっくりとスカートを持ち丁寧に礼をする。
淑女というものである以上、イリヤは初対面の人間にはよくやる行為。
「あらあら、可愛いレディね」
目の前のアレはクスリと笑う。
その笑った顔があまりにも綺麗すぎてぞくっときた。
「申し遅れました。私はアサシンのサーヴァント。名前は・・・、ごめんなさいね」
ゆっくりと礼をするアサシンのサーヴァント。
紫の髪がやはりゆっくりと揺れる。
「――で、何のようかしら
イリヤによって空気が変わる。
張りつめて、とても冷たい空気。
深く息をしたら肺まで凍りついてしまいそうだ。
「私たちはただいま雨宿りをしていたところですわ。生憎、話し相手は十分でしてよ」
「あら、そうでしたの」
ふふふ、と優雅そうに笑っている二人。
優雅ではあるが、今一歩でも動いたら――。
「私が言う言葉は一つですわ。――お帰りになって」
雨が一層強くなったような気がした。
「ははは、はははははは・・・!!」
その言葉にアサシンのサーヴァントは大きな声で笑った。
「・・・何か」
「いえ、いえいえいえ・・・、あまりにもおかしかっただけよ」
口に手を当てどれだけ滑稽なことだったか表す。
それを見てイリヤは凄んで見せた。
しかし、焼け石に水であることは明らかであった。
「そこのお兄様?」
「俺、か?」
目がまっすぐこちらを向いた。
やはりその顔は極上という言葉すら足りないほどの美人であり、――寒気のする笑顔であった。
「私、あなたに初めてお会いしたとき何て言いました?」
「な、に・・・」
殺気が強くなる。
「思い出せません?」
雨音がフェードアウトするように聞こえなくなっていく。
それは身の危険を感じる時の感覚であった。
――そして、やつはソレを取り出した。

真っ黒な包丁であった。
いや、包丁というのもどうか。
刃渡りは50cmくらい、両刃で、真っ黒な剣。
ナイフといった方が良いか。
剣にしては短い部類であるし、ナイフといったら長い方であるが。
そして分かることは、彼女はソレを使い多くの  を刺していること。

チ、ナマグサイ。

胸騒ぎが限界まで高まる。

「わかってらっしゃって」

言葉がうまく聞き取れない。

「私たちサーヴァントは、」

ただ、必死にやったことと言えば、

「タマシイが最高の食事と言うことを」

イリヤを抱きかかえ思いっきり横っ飛びをした。

ずしゃあああああ

水たまりに頭から突っ込む。
そして芝生の上の枯れ木の棒を手につかむ。
――――同調、開始
一気に手元の枝を鉄の棒に変える。
今、魔術師としての俺ができる魔術の一つ。
最近では投影も出来るようになってきたが、ここでやるほど余裕はない。
成功する確率はほぼ10パーセント程度。
それ故、5の物を作るより、1に10を足して11の物を作った方が良い。
――――全工程、完了

ガキーン

鉄の強度となった木の枝とアサシンのサーヴァントの剣がぶつかり合う。
美人のアサシンが剣を振るう姿を見て何故か納得した。

――アイツハ、ヒトヲコロスノニ、ナレテイル。

・・・いや、ナレテイルなんてもんじゃない。

ガキーン

イリヤを抱きかかえたまま剣をはじき返す。
黒い服に身を包んだアサシンはうっすらと微笑を口元に浮かべたまま遊ぶように剣を振り回す。
「イリヤ!!しっかりしがみついていろ!!」
抱きかかえ3歩後進する。

ガキーン

ほぼ同時に繰り出された剣の突きを下からはじき返す。
最近の鍛錬で長時間、物質の強化をすることが出来るようになったが、所詮は強化は強化。
本来の物質は木である仮初めの剣が金属で出来た剣に勝てるわけがない。
だから、
「しっかり捕まってろ!!」
「シロウ!!」
逃げるしかない。
棒を捨て、イリヤをしっかり抱き上げる。

ヒュン

横に水平にはらわれた一撃を斜め後ろに下がり回避する。

ヒュン ザクッ

斬られたのは俺でもなければイリヤでもない。
木に刺さった黒の剣の姿を確認した。
「チッ」
アサシンの舌打ちが聞こえる。
どうやら抜けないらしい。
「よし」
そして俺は一気に走り去った。
ねらい通りだ。
――あいつは戦い慣れしていない。
一対一であれば何とかなるかもしれないがイリヤがいる以上引くべきだ。
そして公園の出口に・・・。

無駄、よ?

アサシンが笑った。

"paid to my God" out



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