教室に一人、私はいた。
誰もいない放課後。
生徒たちは今、部活に励んでいるか、下校して家に着いただろうか。
することもないのでひたすら夕日を眺めていた。
「はーあ」
ため息一つ。
なんであんなことしたんだろうか、って。
whisper and
-I will feed you-
気づけば、やつのことばっかり考えていた。
例えば、あいつがエプロン着てキッチンに立つ姿。
男が料理する、ってのも似合わない話だが、あいつはすごい。
なにせ、女の私より料理が上手だ。
中華じゃ頭一つ私が勝ってるが、洋食和食、とりわけ和食では完敗である。
例えば、あいつの馬鹿で正直でまじめなところ。
嘘が苦手で、何か一つに夢中になると大変なことになる。
いい加減、重い荷を下ろせばいいのに最後まで諦めない。
女関係に恐ろしく疎いくせして変なところにすぐに気づく。
例えば、・・・あいつが魔術を使っているところ。
あいつは下手だ、これだけは胸を張って断言できる。
魔術の基礎知識もない上、魔力もない。
それでいて、正義の味方を目指す、なんてことを言っているのだ。
例えば、あいつが笑っているところ。
あいつは自分のために笑わない。
絶対他人が幸せにならないと嫌な性格だから。
だからあいつが笑っているときは、誰かが幸せなときだ。
「なんで、こんな事考えてるんだろ・・・」
正直、士郎がにくい。
ここまで思い詰めてる私がいるのだから。
なんで、考えてるんだろう。
なんで、あいつばっかが頭の中を占拠してるんだろう。
なんで、なんで、なんで。
「・・・あ」
そして一つの結論に達した。
「うわ・・・、まじで・・・」
思うだけで恥ずかしい。
胸が痛めつけられるようだ。
もう、恥ずかしい。
こんな事を考えてる私は恥ずかしい。
「・・・もう、私ったら」
あー、恥ずかしい。
恥ずかしい。
「私ったら、好きなんじゃん、士郎のこと」
右手を瞼に当て、天を仰ぐ。
熱を持った額がひくひくと動いた。
断言しよう、今なら額で目玉焼きが作れる。
簡単なことだ。
異性のことばっか考えてるって事は、つまり恋してるって言える。
実に単純明快、それだけのことだ。
「おーい、遠坂」
次の瞬間、その馬鹿が教室に侵入してきた。
「し、士郎!!?」
帰っていたと思った。
「悪い遅くなった」
朝と同じように頭を下げ、重ねた両手を頭の上に掲げる士郎。
「べ、別にいいわよ」
唐突だったから変に返事を返すしか出来なかった。
二人夕日を眺めていた。
言葉はなかった。
言おうと努力しても、動悸が速まっているから何をしでかすか分からない。
「遠坂?」
だから士郎が先に話しかけてくれたのは幸いであった。
「・・・あのさ、ごめん」
「・・・別に、怒ってはないから」
「でも結局お弁当食べられなかったでしょ」
「・・・あ、うん」
何て言う不器用なやつなんだろう、って思った。
「ちょっと話してもいい?」
「俺は話があるって思ってここに来たんだけど・・・」
「じゃ、ちょうどいいや」
よっこらしょ、と立ち上がって士郎の横に座る。
二人とも夕日がきれいに見える位置にいる。
「セイバーさ、忘れてないよね」
タブーに触れる。
「・・・忘れてない」
こいつらの聖域に踏み入ろうとする。
なんでこんなことするんだろうって再三悩む。
「なら・・・、いいや」
後悔している。
士郎には好きな人がいるのに、こうやって私が介入しようとするのだから。
言うなれば略奪をしようとしているのだ。
「・・・帰るか」
士郎が立ち上がる。
それを私の手が止めた。
「もうちょっと・・・、ここにいよう」
だから少しでもセイバーから士郎のぬくもりを分けてもらおうとした。
「遠坂・・・?」
「よっこらせ、っと」
士郎の肩に寄りかかる。
「と、遠坂!?」
「黙ってて」
意外と硬い腕だ。
でもなぜか気持ちがいい。
「遠坂・・・?」
「少しこうしてるから・・・。寝ちゃったら下校時間が来る前に起こしてね」
これは戦いだ。
セイバーと私の戦い。
どれだけ士郎がセイバーが好きであっても、少しくらい奪ってやる。
実に子供っぽいことだろう。
でも、士郎の横にいるんだから、少しくらい魔術師じゃない瞬間を作ろうとしよう。
瞼を閉じ、硬い机と横の暖かさを感じながら、どうやってこいつを笑わせようかと考えた。
"whisper and" out
I think he is weakest.
I think he is foolish.
Therefore, I will help him.
I will feed him.
I will need him.
Because, I think he is...
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